PLUGO JOURNAL
山に包まれ、森に包まれ、人に触れる旅の終わり

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山に包まれ、森に包まれ、
人に触れる旅の終わり

二日目の朝。夜から降り続いた雨で山々は霧に包まれていた。
一羽のトンビが高く啼きながら飛んで行く。
山と森と人に触れた旅が終わる朝だ。

九つ膳ではじまる
やわらかでゆったりとした朝

朝8時。部屋のドアがノックされ、朝食が届けられた。まだ湯気の立っている白いご飯が入ったお櫃、あたたかい味噌汁、そして小さなおかずが並んだ九つ膳だ。だし巻き卵まで付いている。これ以上は望むことのできないような、すばらしい朝食だ。
窓からのやわらかい光に輝くそれらを眺め、味わいながらこの旅の終わりにどこへ行こうかと考えていた。

小菅村、もうひとつの名物はジビエ料理

チェックアウトを済ませ、霧雨のなか駐車場へ車をとりに行く途中、村の方が声をかけてくれた。
「おはようございます。あいにくの天気ねぇ」
どこかおすすめの場所や食べ物は? と伺ってみると
「お魚もわさびも食べたなら、そうね、ジビエ料理もいいかもしれないわね」
昨日、わさび田を教えてくれた方は元猟師だった。この村では鹿、イノシシ、熊などがよく獲れるそうだ。行ってみよう。

佐藤千代子さんは、もともと小学校の先生だったそうだ。
佐藤千代子さんは、もともと小学校の先生だったそうだ。

スローな旅は、景色の
解像度を変えてくれる

車に乗り、昨日の朝に宿へ向かったのと同じ道を走る。同じ道なのだが、昨日と今日では見え方が違う。村の中を自転車で走って見て回った経験が、景色の「解像度」を変えているのだ。木の一本ずつ、霧で煙る山々、時おり橋で渡る川。そんなものが観光地のそれではなく、たしかにここに暮らし生きる人たちを支えているものに見えてくる。

小菅村で獲れた鹿肉を使った料理で旅の幕が降りる

村内でジビエ料理と言えば「食事処ムッカ」だ。周囲を山々に囲まれて平地の少ない小菅村にとって、ジビエは貴重な資源でもある。村内にはジビエ専用の食肉処理施設もあり、そのおかげで生臭さのまったくない新鮮な鹿肉を楽しめるのだそうだ。 注文したのは、野菜もたっぷり使われた「鹿肉ビビンバ」。豚とも牛とも違う、でも誰でも食べやすい鹿肉をぞんぶんに味わった。

山と、川と、人間が
ともに暮す場所

このお店を営んでいるのは、株式会社boonboonの鈴木さん。野生動物をジビエとして食べるだけでなく、人間との良好な関係づくりをすすめるための活動もしているという。
森と、山と、川と、人が生きているこの村。たんに「都会の喧騒を忘れる」ための逃避行ではなく「自分にあったかもしれないもう一つの人生」に思いを馳せるような旅の終わりにこの料理を選んだのは偶然ではなかったのかもしれない。

株式会社boonbonnの鈴木さん(右)と、調理担当の方。料理は日替わりで、この日はビビンバ以外にも「鹿バーグ定食」が提供されていた。
株式会社boonbonnの鈴木さん(右)と、調理担当の方。料理は日替わりで、この日はビビンバ以外にも「鹿バーグ定食」が提供されていた。

TRIP ROUTE

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  • A

    食事処ムッカ(原始村キャンプ場内)

    11:00〜15:00

    〒409-0211 山梨県北都留郡小菅村1970

    080-9297-6609

    水道管が凍結してしまう冬季(12月中旬ごろから)は休業。営業状況を確認してからの訪問をおすすめします。

    GOOGLE MAP

Photographer:
橋本越百 ( Instagram / Website / )

広告制作会社で修行後、フリーランスフォトグラファーへ転身。
名前の”越百”は、山が由来。
アウトドア、民俗学、ミリタリーな物が好き。
ストーリーを込めた風景・人の撮影や、構図を特徴とした商品撮影が多い。

TEXT:
塚岡雄太 ( Twitter / Instagram / Website )

PLUGO JOURNAL編集デスク。趣味はサイクリングと読書で、どこにでも自転車で現れるのでよく人を驚かせる。デジタルガジェットが好きで、IoTを活用したサステナブルな活動に興味を持っている。

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