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違法な漁業に立ち向かい、海を再生する海底彫刻美術館

ART | 2022.03.25

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違法な漁業に立ち向かい、海を再生する海底彫刻美術館

違法なトロール漁によって荒れる海底

サステナブルな社会実現に向けて我々ができることは、開発だけではない。
自然破壊を止め、自然を手付かずのままにしておくことや、再生の手助けをするのも大切なことのひとつだ。

「自然破壊」と聞くと森林を思い浮かべる人が多いかもしれないが、イタリアにおいては、違法なトロール漁により「海の底」が破壊され続けているという。

それに立ち向かったのは、一人の漁師。
Paolo Fanciulli氏は違法漁業から海を守るため、海底に美術館を作ったのだ。

以前紹介した「人工漁礁の役割も持つ、キプロス島のサステナブルな海底彫刻美術館」では、海底に作られた彫刻美術館が人工漁礁の役割をも果たしていたが、今回は海底彫刻美術館が、荒れ果てた海を見事復活させたのだという。

海底に広がる彫刻美術館「House of Fish」

イタリア・トスカーナ州マレンマ海岸沖の海底に作られた彫刻美術館の名は「House of Fish」。
巨大な石の彫刻が39体、海に沈んでいる。これらの作品はルネサンス期の巨匠Michelangeloが好んだカッラーラ大理石で作られており、まるで水没した古代都市の遺跡のような姿をしているという。


40年もの間Paolo Fanciulli氏は毎日漁に出ていたが、違法なトロール漁を行う人が後を絶たず海の生態系は破壊されてしまった。そのため海底は「砂漠」と化し、漁獲量が急激に減少してしまったのだ。
そこで作ったのが「House of Fish」。

この海底美術館は海を守るために、どのように役立ったのだろうか。

海の生態系を破壊するトロール漁

トロール船は重りのついた網を海底に引きずりながら進むことで大量の魚を捕獲する。漁獲量は多いが、その過程で海底の植物や海洋生物を無造作に剥いでしまうという漁法だ。

「イノシシを捕るために森を焼き払うハンターのようなものです」とFanciulli氏は言う。

ここマレンマ海岸の海底では、「ポシドニア(別名ネプチューングラス)」という海藻が広大な海底草原を形成し、海洋生物の苗床として非常に重要な役割を果たしていた。
「海の生命はポシドニアから始まる」とも言われるようにロブスターや鯛などが卵を産む場所であり、さらにはアマゾン熱帯雨林の15倍もの二酸化炭素を吸収することができる、強力な二酸化炭素吸収源でもあったが、そのポシドニアまで破壊されてしまったのだ。

トロール漁は、生物の棲息環境を壊し、水を濁らせ、海底の下に沈んでいた汚染物質や二酸化炭素を解放してしまう。
特に浅い海ではその影響が多大なため、イタリアの海岸から3海里以内でのトロール漁は禁止されているのだが、「儲かる」という理由で違法に続けている人達がいて、広大な海岸線を持つイタリアでは警察が全てを取り締まることも難しいそうだ。

「House of Fish」によって復活した海

そんな中「House of Fish」は、確実にその役割を果たしている。

海底に沈められた彫刻に網がひっかかり、トロール船が網を放さざるを得ない状況にすることで、違法な漁に対する抑止力となっているのだ。
この地域の違法トロール漁は完全になくなり、さらには海底に沈む彫刻によってポシドニアが再生し、海洋生物も再び戻ってくるという効果もあったのだという。

「House of Fish」は、スキューバダイビングやシュノーケリングのツアーで見学することもできる。
「文化的なアトラクションであると同時に、海を守り、魚の繁栄を助けるものなのです。彼ら(違法なトロール漁を行う人達)は海と私の生活様式を破壊していました。海が死ねば、漁師も死ぬ。ただ奪うだけでなく、与えることも必要なのです」と、Fanciulli
氏は述べている。

マレンマ海岸のさらに上流ではいまでも違法なトロール漁が横行しているが、彼の意思はすでに固まっているという。
「人間が海を破壊しているのは変わらない。そして、私の使命は続くのです」と締め括っている。


Source :Italian fisherman sinks illegal trawlers with ‘other-worldly’ underwater sculptures

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TEXT:
倉若太一 ( Instagram )

PLUGO JOURNALニュースライター。企業・利益中心の開発はいかがなものかと疑問を持ち始めました。いつまでもあると思うな親・金・資源。

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